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徳島地方裁判所 昭和35年(行)4号 判決 1966年5月31日

徳島県鳴門市撫養町林崎字北殿町二五番地

原告

株式会社鳴門水産

右代表者取締役

里見一薫

右訴訟代理人弁護士

原秀雄

徳島県鳴門市撫養町南浜

被告

鳴門税務署長

横山澄

右指定代理人検事

杉浦栄一

同法務事務官

中川安弘

大坪定雄

同大蔵事務官

片岡甲子夫

右当事者間の行政処分取消請求事件について、当裁判所はつぎのとおり判決する。

主文

一、被告が昭和三三年一二月二六日付をもつて、原告に対して為した更正決定のうち審査決定で取消された部分を除く残余の左記(一)の部分並びに左記(二)の青色申告書提出承認の取消決定は、いずれもこれを取消す。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

(一)  昭和三二年四月一日より同年九月三〇日に至る事業年度の法人税等についての更正決定

所得金額 一、六八五、八一三円

法人税額 六四八、五八〇円

重加算税額 一二三、〇〇〇円

合計 七七一、五八〇円

(二)  昭和三二年四月一日より同年九月三〇日に至る事業年度以降の青色申告書提出承認の取消決定。

事実

(当事者双方の申立)

一、原告の申立

主文同旨の判決を求めた。

二、被告の申立

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求めた。

(原告の請求の原因)

一、原告会社は被告から青色申告書をもつて確定申告することの承認を得ていたものであるが、被告に対し昭和三二年四月一日から同年九月三〇日に至る事業年度(上半期、本件係争の事業年度)及び同年一〇月一日から翌年三月三一日に至る事業年度(下半期)の所得金額についてそれぞれ確定申告(本件係争の上半期分についての申告所得額は三〇六、五八五円である。)したところ、被告は、昭和三三年一二月二六日付をもつて、左のとおり更正決定(尤も上半期分についてはこれより先昭和三三年七月二日に被告から所得金額を三四六、五二九円と更正する旨の第一回の更正決定がなされているので本件の更正決定は第二回目の更正決定である。)並びに青色申告書提出承認の取消決定を為した。

(一)  昭和三二年四月一日より同年九月三〇日に至る事業年度の確定申告書の所得金額法人税額等をつぎのとおり更正決定。

所得金額 二、一二七、六〇〇円

法人税額 八二五、三〇〇円

納付の確定した当期分の基本税額 一二〇、五三〇円

差引き法人税額 七〇四、七七〇円

重加算税額 二一一、〇〇〇円

(二)  更正決定により納付すべき税額 九一五、七七〇円

(三)  昭和三二年一〇月一日より昭和三三年三月一日に至る事業年度の確定申告書の所得金額・法人税額等をつぎのとおり更正決定

所得金額 一、七四九、三〇〇円

法人額税 六七四、七二〇円

重加算税額 三三七、〇〇〇円

更正決定により約付すべき税額 一、〇一一、七二〇円

(三)  昭和三二年四月一日より同年九月三〇日に至る事業年度以降の原告の青色申告書提出の承認についてこれを取消す決定

二、原告は被告の為した右処分を失当として、昭和三四年一日二〇日被告に対し再調査の請求をしたが、同年五月九日右再調査の請求は棄却された。

三、そこで原告は、同年六月二日さらに高松国税局長に対し右処分に対して審査の請求をしたところ、これに対して高松国税局長は昭和三五年二月二六日付で左のとおりの決定を為し、原告は同年同月二八日に右決定の通知を受けた。

(一)  第一項(一)(昭和三二年度上半期分)の更正決定については、一部原告の請求の理由あることを認めて、被告の為した再調査請求棄却の決定を取消し、更正決定の一部をつぎのとおり取消す旨の審査決定を為した。

<省略>

(二)  第一項(二)(昭和三二年度下半期分)の更正決定については、原告の請求を正当と認めて、被告の為した更正決定の全部を取消した

(三)  第一項(三)の青色申告書提出承認の取消決定については、原告の審査請求は棄却された。

四、しかしながら、被告の為した右第一項(一)の更正決定(ただし第三項(一)の残余の部分についてのみ)は原告の所得認定を誤つた違法の処分であり、又第一項(三)の取消決定も右の誤認に基くもであつて違法の処分であるから、これが行政処分の取消を求めるものである。

(被告の答弁および主張)

原告の請求原因一、二、三項の事実は認める。

被告が本件更正決定並に青色申告書提出承認の取消決定をなした理由ないし根拠は次のとおりである。即ち、

第一、原告会社の備え付ける帳簿書類の記帳状況は、つぎに述べるように取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載する等、当該帳簿記載書類の記載事項の全体についての真実性を疑うに足りる不実の記載があり、原告会社の取引の実体を正確に記帳しているとは思われない。

一、原告会社は商品の仕入れに当り、仕入先発行の仕切書により仕入水揚帳に個数および単価を記載し、さらにこれを仕入帳に移記して個数・単価および仕入金額を記載することにしているが、その仕入水揚帳と仕入帳の記帳状況についてみると、つぎのように仕入水揚帳に記載された数量が仕入帳に記載されていないもの、逆に仕入帳に記載されていて仕入水揚帳に記載されていないもの、又は双方に記載された数量に差異があるものがあり、又双方ともに記載もれがある。

<省略>

もつとも、右のうち(7)以外については請求書等の記載の過程等において修正されてはいるが、かかる水揚帳と仕入帳との記載の差異についてはその都度そのてん未を明明らかにすべきであり、これを放置していることは原告方の記帳の粗雑さを表わしているというべきである、

(三)、原告会社の仕入帳は、係争事業年度において修正された個所が多くあるにもかかわらず、なお係争事業年度の各月ごとの仕入勘定の集計額と買掛帳集計額(左の集計額はいずれも北灘からの仕入金額を除外したものである。)との間につぎのような過不足を生じており、係争事業年度を通じて計算すると仕入金額が過大計上となつている。

<省略>

原告方の仕入帳のうち、つぎのものについては仕入時における単価と金額を赤線にて抹消し、下欄に改として単価と金額を記載しているのみであつて、単価の改訂の理由並びに処理の年月日の記載がなく、右帳簿からは係争事業年度中にその改訂処理が確定したものと推定されるので、被告は右の集計をするに当り右記載に則り、改定後の単価と金額により計算を行つたものである。

<省略>

原告は、右がいずれも係争事業年度中に単価改定が確定しているにもかかわらず、その処理を行わずに放置し、仕入金額を過大に計上しているものである。

三、原告会社は、訴外高知日冷から商品仕入れの際に受取つた歩戻し券(仕入商品一箱又は一包毎に商品とともに内蔵されている。)を現金として取扱い、当該仕入れに対する買掛金の支払等に当しているが、歩戻し券の処理が一定せず不明確であり、かつ記帳もれのものがつぎのとおりである。

(一) 昭和三二年六月二九日買掛金二三六、八三〇円の支払について、現金出納帳では二三六、八三〇円を支払つたことにしているが、領収証記載の金額は二二九、三三〇円となつており、差額七、五〇〇円については、仕切書には歩戻し券五〇〇枚・七、五〇〇円と記載されているが、現金出納帳には二、五〇〇円が雑収入に記載されているのみで、五、〇〇〇円の処理が明らかでない。

(二) 昭和三二年九月一〇日買掛金六四、八三五円の支払について現金出納帳には六四、八三五円と記載されているが、領収証には五八、三八五円と記載されており、差額六、四五〇円については、仕切書には歩戻し券六四五枚と記載されているが、その処理が明らかでない。

従つて、右の処理が明らかでない合計一一、四五〇円は現金の不当支出でそる。

なお、原告が右二、五〇〇円以外の歩戻し券を現金に含めていないことおよび現金管理の不的確であることは、被告が昭和三三年一〇月一三日午前一〇時三〇分現在において原告の現金監査を行つた実績(現金出納帳の残高は二七六、二三九円と計算されるにもかかわらず、現金在高は二七五、八〇三円で四三六円が不突合となつており、又現金在高の中には歩戻し券は含まれていないこと)からも明らかである。

四、原告会社は、徳島市富田浜一丁目に出張所を設置しているが、当該出張所と外部との取引きについては、出張所において仕入先毎の一定期間の仕切書をとりまとめ、別個に仕切書を作成して支払等を行つているが、本店においては出張所において作成した仕切書の回付を受け、当該仕切書の写しを作成し、本店帳簿に記載することにしているが、出張所の仕切額と本店仕切額との間につぎのような過不足を生じているもの、あるいは出張所の帳簿に記載されているもので本店帳簿の現金出納帳・仮払帳に記載されていないもの等がある。

<省略>

もつともこれ等については請求書等の記載の過程において正当額に修正されてはいるけれども、仕切書の金額と仕入額に過不足のあることは原告方の記帳の粗雑さによるものであり、徳島出張所の仕切書の記載の誤りについてはその都度そのてん末を明らかにすべきであるのに、これを放置したため不突合が生じたものである。

五、原告方の帳簿には、売上金額についてつぎのような脱漏がある。

即ち、原告会社は、昭和三二年九月四日訴外株式会社鳴門海産魚市場に対して五二、三〇九円の売上げがあるにもかかわらず、売上帳には五一、一五〇円と記載し、その差額一、一五九円の売上げを除外している。

六、原告会社が昭和三二年五月一〇日訴外大和善一に対して仕入代金を仮渡した際、原告会社の支払伝票によれば現金二〇万円を支払つたように記載されているが、他方原告方の判取帳によれば昭和三二年五月九日一〇万円の受取証があるのみであつて、その差額一〇万円の処理が不明である。

七、原告会社は、収支伝票方式により仕訳帳は使用せず日計表により処理しているが、一部現金の収支を伴わない取引きについては振替伝票を作成することなく直接日計表で仕訳け処理することにしているが、原告会社が期未の日計表により振替記帳を行つたもののうちつぎのような不明確な取引きがあり、記帳の正確性が認められない。

(一) つぎのように買掛金と仮払金の再建整理を為し、故意に処理を遅延せしめて利益を調節したものと推認されるものがある。

<省略>

(二) 原告会社は、売掛金元帳と総勘定元帳の売掛金残高との相述分二、〇四九円について、昭和三二年九月三〇日つぎのように振替整理を行い、雑損に計上して調整しているが、その相違の生じた原因が不明であり、かかる事実は原告会社の記帳の粗雑さを表わすものである。

<省略>

八、原告会社は昭和二四年一二月三日に設立されたものであるが、設立以来現在まで訴外里見一薫が取締役社長として原告会社の業務一切を運営し、原告方帳簿の作成は原告会社の本店所在地である里見一薫の自宅において同人がこれに当り、その長男里見富土夫および次男里見良幸をして金銭出納を為さしめ、これ以外の者は経理関係ついては全然関知していない実状であつて同族会社的色彩が濃厚であるというべく、原告会社の経理関係は里見一薫の個人的意思によつて左右されているものである。

而して、原告会社の営業活動の主体は徳島出張所にあるのであるが、同所においては仕切書および仕入水揚帳等の記帳にとどめ、右書類を本店に送付して本店において里見一薫親子が同一様式の仕切書および仕入水揚帳等を作成しているのであるから、その段階において取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装する等の操作を施しているものである。

このことは、里見一薫の家族は原告会社の販売のための商品等を副食として日常生活に費消しているが、かかる事実は原告方の帳簿に記載されていないこと、里見一薫は原告が阿波商業銀行鳴門支店から借入れをする際に自己所有の不動産について無償でこれを担保に供していること等、原告会社と右訴外人との関係が密接であることからもうかがうことができる。

九、原告会社の代表者里見一薫は、後藤栄なる架空名義および家族名義に預金する等の方法で原告会社の所得金額を隠ぺいしている。即ち、

(一) 里見一薫は、昭和三二年九月一七日かねて四国銀行鳴門支店に預け入れていた妻里見ラク名義の普通預金六八万五、九八七円を同行において三分し、内三〇万円を里見繁子(次男の妻)名義の普通預金に入金し、内二〇万円は改めて里見ラク名義の普通預金口座を設けて入金し、残額に手持現金を加えた一九万円を後藤栄なる架空名義の普通預金口座を設けて入金していたところ、昭和三二年九月三〇日(係争事業年度期末)右後藤栄名義の預金口座に三〇〇万円の入金が為されている。

(1) ところで右三〇〇万円内二〇〇万円は、各株主が原告に貸付けていた資金を返済した如く原告の帳簿に記帳し、これを一括してこの預金口座に入金したものであつて、右金額は翌事業年度期首には右口座から引き出されて再び借入金として原告の帳簿に記入され、資金として運用されているものである。

而して、右の借入金二〇〇万円の内一〇〇万円は昭和三二年五月三〇日里見一薫から借入れたものであるが、里見一薫からの右借入日において原告会社は多額の現金等を所持しており、又借入日以降の支払状況からみても、右の借入れが必要のないものであるにもかかわらず、借入れが為されているのであつて、このことは前記の架空名義の預金と原告会社の経理とが密接な関連を有していることを裏書きするものである。そして里見一薫からの借入金は、翌事業年度においても為されており(昭和三二年一〇月二日一〇〇万円、一〇月三日三〇万円、一一月一四日一〇万円、一一月一五日五万円、同日五万円、同日二〇万円、昭和三三年一月一七日三〇万円、同日二〇万円、二月一一日一〇万円)、右借入金は、昭和三三年三月二七日一〇〇万円、三月二八日五〇万円、三月二九日七〇万円、三月三一日一〇万円を各返済したように記帳されているが、いずれも後藤栄名義の預金口座に入金されているのである。

又、里見一薫を除く他の株主からの借入金については、係争事業年度において、昭和三二年七月一〇日北原清・津川シゲノ・市原兵二郎・村井富三郎・池肩寿一の各株主から各二〇万円宛合計一〇〇万円を借入れ、同金額については昭和三二年九月三〇日に各返済した如く記帳されているが、いずれも後藤栄名義の預金口座に預入れられ、同月一〇月二日にこれから引出されて再び原告の借入金として記帳されているのである。そして係争事業年度の翌事業年度においても、原告会社の帳簿には、昭和三二年一一月一三日に北原清・村井富三郎・池肩寿一から各二〇万円、市原兵二郎から三〇万円、同年一一月一四日津川シゲノから二〇万円、合計一一〇万円の借入金の記載が為され、これら借入金合計額二一〇万円は、昭和三三年三月二九日に村井富三郎・池肩寿一に各四〇万円、同月三一日に北原清・津川シゲノに各四〇万円、市原兵二郎に五〇万円宛支払われたように記帳されているが、さらに同年四月五日に一三〇万円(北原清四〇万円、津川シゲノ四〇万円、市原兵二郎五〇万円)、同月一四日に一〇〇万円(村井富三郎四〇万円、池肩寿一四〇万円、里見一薫二〇万円)を引出し、原告会社の帳簿に再び借入金として記帳されているのである。

このように、原告会社の借入金については返済され又借入れたように帳簿に記帳されているが、実際には後藤栄名義の預金口座に預入れられ又引出されているのであり、この点について各株主は全く関知せず、又原告会社はかかる借入れについて借用証をも発行していないのであつて、このことは右架空名義の預金により原告会社の利益を除外し、その取得の一部を隠ぺいしていることを裏付けるものである。

(2) 前記昭和三二年九月三〇日の後藤栄名義に預金された三〇〇万円の内八〇万円については、原告会社の仕入先である訴外旭丸に対する買掛金の支払代金について、実際には支払われていないにもかかわらず支払をした如く帳簿上の操作をして、この預金口座に入金したものである。

尚、旭丸に対する代金は支払八七万三、二二〇円であるから、前記八〇万円との差額七万三、二二〇円は原告会社の倉庫に保管されていたとすれば、原告会社備付の金銭出納帳の記載と実際の現金在高との間に相違を生ずることになり、右記帳の真実性は乏しいものと云わなければならない。

(3) 前記三〇〇万円の内二〇万円については、里見一薫および同人の家族等の給料その他の収入を合せた手持現金を預金したものとしても、原告会社から支給を受ける同人等の九月分の収入の合計は別表(一)のとおり一一二、〇〇〇円であり、生活費その他の出費を控除すればかかる多額の手持現金があつたとはとうてい考えられないから、右金額は原告会社の所得を隠ぺいしたものであると推定もざるをえない。

(二) さらに、次に述べるような予金等の増加額からみても原告会社の所得の一部が隠ぺいされているものと推定せざるを得ない。即ち、

(1) 後藤栄名義および里見一薫の家族名義の普通預金の本件係争事業年度における増減状況をみると、つぎのとおりである。

<省略>

即ち、本係争事業年度においては合計二、五二五、〇八二円の増加となつているが、この内には前述の他の株主分の貸付金一〇〇万円および旭丸に対する買掛金の支払代金八〇万円が含まれているから、これ等の金額および預金利息七、八六四円を控除すると七一七、二一八円が係争事業年度中の純増加額である。

ところで、前述のように後藤栄なる架空名義の預金と里見一薫の家族名義の預金との間には関連があるうえ、右増加額のうちには里見一薫およびその家族の給料等の個人所得が含まれているとしても、右給料等の総所得額は別表(一)の如く合計六〇一、二〇〇円であり、このうち別表(二)の如く推計生活費二四七、二六〇を控除すればその差額が三五三、九四〇円であるにもかかわらず、右金額を越えて多額の預金の増加額があることになり、里見一薫およびその家族の収支原告会社からの給料・家賃・配当および利子以外にはないから、右預金の増加額は里見一薫及びその家族の個人所得をもつては解明しえないものであつて、右増加額三六三、二七八円は原告会社の所得の一部であると推定せざるをえない。

(2) これ等の点について原告は、里見ラク名義あるいは里見房枝名義で四国銀行鳴門支店に預入れてあつた定期預金等の払戻しを受けた金額がその主張のように八三五、四七二円あつたから、右の預金の増額は不当でないと主張する。しかし、原告主張のように右金額の払戻しを受けたことは認めるけれども、前述した普通預金以外にもつぎのような定期預金等の預入れないしは土地の取得の事実があるから、この増加分も考慮すれば、右の払戻をうけた金額を計算に入れても原告主張の如き余裕金のなかつたことは明らかであり、預金の増加額は原告会社の所得金額を一部除外したものであるとする被告の主張に何ら不当な点はな

(イ)、預金関係について

係争事業年度中における里見一薫の家族名義の定期預金等の増減状況はつぎのとおりである。

<省略>

(ロ)、土地の取得について

里見富士夫は昭和三二年四月二二日に訴外山本陞から鳴門市撫養町南浜字東浜一四九番地の一・畑六畝二〇歩(昭和三五年七月二一日に宅地二〇〇坪に地目変更の登記を行つている)を訴外伊藤隆七と共有で買受けているが、同日四国銀行鳴門支店の里見ラク名義の普通預金から引出された五〇万円は、右土地の買入れ代金の支払にあてられたものと推認される。

(3) 而して里見一薫が架空名義等により原告会社の所得の一部を除外したと推定される金額は三八三、五一八円であつて、その計算の根拠はつぎのとおりである。

即ち、前記(二)の(1)で述べた係争事業年度中の預金の純増加額七一七、二一八円から三五三、九四〇円(収入金額六〇一、二〇〇円から推計生活費二四七、二六〇円を控除した額)を差引いた三六三、二七八円に、前記(二)のの(イ)(ロ)で述べた預金の期中増加額三五五、七一二円および土地取得価額五〇〇、〇〇〇円を加算し、これから原告主張の定期預金の払戻金八三五、四七二円を控除した差額三八三、五一八円が、原告会社の所得を隠ぺい仮装したものである。

第二、青色申告書の提出承認の取消について

以上述べたように、原告会社備付の帳簿書類には取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載する等、当該帳簿書類の記載事項の全体についてその真実性を疑うに足りる不実の記載があり、かかる事実はいずれも法人税法第二五条第八項第三号に該当するものであるから、被告が原告の青色申告書の提出承認の取消をしたことに何ら不当な点はない。

第三、所得金額の推計計算について

前述の如く、原告会社の帳簿の記帳には不合理個所が多く、確実性に乏しいので措信することができず、原告会社の備付ける諸帳簿のみによつては適法な課税所得金額を算定することができない。従つて被告は、青色申告書提出承認の取消を行い法人税法第三一条の四第二項の規定に基づき、つぎの如き計算により合理的に課税所得金額を推計して、課税標準の更正を行つたものである。

一、原告会社の提出にかかる本件係争事業年度分の所得金額等の確定申告書に添付された損益計算書によれば、原告会社の売買差益金額〔売上金額-売上原価(期首繰越商品等+仕入商品+諸経費-期末棚卸商品等)〕は別表(三)の如く六、二七〇、八八五円であり、売上金額に対する当該金額の割合(売買差益率)は九・八九%である。

二、しかし、前述の如く、原告会社の記帳にもとづいて計算した売買差益率は確実性に乏しく措信できないので、適正な売買差益率を算出し、当該差益率と原告会社の記帳に基づく差益率との差によつて除外利益金額を推計し、課税所得金額を算出するため、つぎのような計算により適正な売買差益率を算出した。

即ち、原告会社の所持する係争事業年度中の仕入票および売上仕切書により、原告会社の主たる取扱品につき当該商品の仕入価格ならびに売上価格を抽出し、これを煎子とその他の塩干物に区分し、それぞれの平均差益率を計算すると別表(四)のとおり煎子については一二・二一%であり、その他の塩干物は一二・七四%となる。

これをそれぞれの取扱高の割合により加重平均による売買差益率を算出するため、原告会社の記帳せる仕入帳により仕入先ごとの取扱品目ごとに区分し、取扱高の割合を計算すると煎子は六三・五六%となり、その他の塩干物は三六・四四%となり、双方加重平均による売買差益率は一二・四〇%で、当該差益率が原告会社の係争事業年度の適正な売買差益率である。

三、右の如く、原告会社の帳簿による売買差益率は九・八九%であるから、前項で計算した適正な売買差益率一二・四〇%との間には二・五一%の開差が生ずることになるが、右一二・四〇%の売買差益率の算出に当り抽出した仕入価格は運賃を含まない価格により算出しているので、右一項の計算による売買差益金額六、二七〇、八八五円に運賃の金額九〇〇、七一九円を加算して修正すると、売買差益金額は七、一七一、六〇四円となり、売買差益率は一一・三一%であつて、前項の計算による適正な売買差益率一二・四〇%との間には一・〇九%の開差が生ずることになる。

しかしながら原告会社の売上値引等の点を考慮して原告会社記帳の売買差益率との開差を一%程度と認定し、当該差益率を売上金額六三、四〇五、六八三円に売上脱漏額五二、三〇九円を加算した六三、四五七、九九二円に乗じると、六三四、五七九円の除外利益が推計される。

従つて、原告会社の申告所得金額三〇六、五八五円に売掛金認容誤びゆう四〇、九七一円を加算し、更に貸倒準備金限度超過額計算誤びゆう一、〇二七円を減算した三四六、五二九円に前記除外利益金六三四、五七九円、青色申告承認の取消による貸倒準備金五五、〇〇〇円および同価格変動準備金六六九、五九四円を加算した金額一、七〇五、七〇二円が係争事業年度の課税所得金額と計算されるところ、被告がなした本件更正決定のうち審査決定で認容された課税所得金額一、六八五、八一三円は右の範囲内にあるので、被告が為した本件更正決定のうち審査決定で認容された部分は不当ではない。

(被告の主張に対する原告の答弁・主張)

第一の主張に対して

被告は、原告会社の帳簿には不合理な個所が多く、確実性に乏しいから措信できないと主張するが、被告が不合理として指摘する事実は、何れも外形を皮相的・形式的に見て述べているにすぎず、認識不足であり、原告会社の諸帳簿並びに取引計上には殆んど誤りがない。原告会社の年間売上高は一億円にも達しており、かかる巨額の取引を記帳する帳簿に僅少な誤記があるからといつて、帳簿の全部を不明確であると断じ、措信できないと独断することは失当であるといわざるをえない。右の如き巨額の取引について被告が一切の帳簿を引上げて一年有半に亘り優秀な職員を多数投入して調査した結果、不合理個所であるとして被告が指摘できるのは被告の主張するところだけである。而して右の個所についても以下に述べるとおりであつて、少しく原告にその真相を説明せしめる時は、容易に納得の行くことばかりであり、これによつてみれば原告会社の帳簿はむしろまれにみる正確な記帳が為されているというべきである。かかる帳簿を目して不合理・不正確であると主張することは不当であつて承服することができない。

一、について

被告は、原告会社の仕入水揚帳と仕入帳との記載に差異があると主張するが、これはつぎのような事情によるものであつて、これによつてみれば、仕入帳の記帳落ちは(7)のマイリ五個の一件があるのみである。

(1)のマイリは、当初は九四個仕入れることになつていたのであるが、その内一個は出荷主の命によつて大一銑鉄へ渡したため、差引き九三個が真実の仕入数量となつたのであり、徳島水揚帳にはこの旨記帳されている。

(2)の小羽<大>について、水揚帳には昭和三二年四月一〇日に二個の記入があり、仕入帳には記帳洩れとなつているようにみえるが、四月一九日支払の仕切書には<大>二個代金三二〇円と記載されており、又仕入帳一八八頁の合計金額三六、八九〇円の中には右<大>二個の代金三二〇円が含まれて計算されているのであるから、結局は記帳洩れになつていないのである。

(3)のカエリは、水揚帳には一貫入り三合せ一個と記帳され、仕入帳には一貫入り三個と記帳されているのであるから、目方はいずれも三貫であつて、数量並びに価格に差異はない。

(4)の塩サケは、水揚帳にも六個と記帳されており、被告はこの点を見落しているのである。

(5)のアジについても仕入帳に金三五二円と記帳されている。

(6)のマイリについては、水揚帳から仕入帳に転記する際に、六個と記載すべきを水揚帳の本件の次の行に記載してある他店の七個の分を誤記したものであるが、仕入帳記載の通り七個分の代金を支払つてある。

(7)のマイリ五個が仕入帳に記帳されていないことは認めるが、こては記載落である。

(8)のアジについては、七月三〇日に一度アジ七個を受取つたのであるが、出荷主の要求によつて八月一日にその内六個を渡したので、差引きの仕入数量は一個となつたのであつて、仕入帳の記帳に誤りはない。

(9)のマイリについては、水揚帳から仕入帳に転記する際に五個を四個と誤記したのであるが、後にこのことを発見したので仕入帳に不足分の一個を記載して代金の支払をしたものである。

(10)のイ丸干については、水揚帳から仕入帳に転記する際に三個を二個と誤記したのであるが、これはその後全部を出荷主に返送したので、仕入金額には何等関係がないものである。

二、について

被告は、原告会社の仕入帳には、仕入勘定集計額と買掛帳集計額との間に過不足があると主張するが、右はつぎの如く八月分において三〇円の差異があるだけ(これは八月分仕入帳集計の計算違いである。)で、他には何らの違算はない。

<省略>

なお被告が係争年度中に単価改訂が確定しているにも拘らず、その処理を行わず仕入金額を過大に計上していると主張している三個の事例は、いずれも翌事業年度において値引、改訂が行われたものであるから、翌事業年度の決算において修正計上すべきものであると信ずる。

三、について

(一)、原告会社は、販売先から歩戻券一枚を受取るごとに一〇円宛を現金で支払していたが、右支払をいちいち記帳するのは煩雑であるので、歩戻券と引換の右出金を記帳せずに歩戻券一枚を現金一〇円とみなして記帳処理していたものである。又これとは別に高知日冷から原告会社に対して歩戻券一枚について五円宛の手数料が付くので、高知日冷へ買掛金の支払を為す際に歩戻券を送つて現金支払に充当していたものである。即ち、昭和三二年六月二九日の買掛金二三六、八三〇円については、販売先から引換えた歩戻券五〇〇枚を五、〇〇〇円とし、これと右五〇〇枚の歩戻券について原告が受けるべき手数料二、五〇〇円を右の支払に充当し(この手数料二、五〇〇円は帳簿上は雑収入として記帳処理している。)、差引き二二九、三三〇円を実際に現金で支払つたものであつて、領収証には右金額が記載されているのである。

(二)、同年九月一〇日の買掛金についても右と同じであつて(ただしこの分については手数料が付いていない)、買掛金六四、八三五円については、販売先から引換えた歩戻券六四五枚を六、四五〇円として右の支払に充当し、差引き五八、三八五円を実際に現金で支払つたものであつて、領収証には右金額が記載されているのである。

(三)、右の如く、原告会社が歩戻券を受取つた場合にはこれを現金とみなして処理したものであつて、その処理に不明確なものはなく又記帳もれもない。元来、右の歩戻券は高知日冷が小売店へのサービスのために出しているものであつて、卸問屋である原告会社は単に右歩戻券の中継をするにすぎない。即ち、原告会社は小売店に高知日冷の商品を販売する際に歩戻券一枚につき一〇円宛を支払つておき、高知日冷に支払を為す際に右歩戻券一枚について一〇円宛の支払を受けることになつていたのであり、結局原告会社はこれによつて何等利得するところはないのである。

四、について

原告会社が被告主張の場所に出張所を設置していること、原告会社の帳簿が、被告主張の方法により記帳されていることは認めるが、その余の点はすべて否認する。

(1)については、徳島出張所では五月四日頃一応仕切書を作成したが、出張所はその支払をしなかつたので、当時本店の仕切書を作成しなかつたのである。本店では右の仕入れについては、仕入帳の二五〇頁(四月分)と一八頁(五月分)に記載してあり、代金は遅れて当期末に至り精算している。

(2)については、出張所では九一、九八〇円の仕切書を作成して本店へその送金方を依頼してきたが、右の仕切書中に違算があつたので、本店において改めて仕切書を作成して八九、七三〇円を送金したのである。

(3)については、出張所では買掛金三〇、二八五円から前渡金三、〇〇〇円を差引いた残額二七、二八五円の仕切書を作成してきたが、右仕入先には先きに一四九、二七六円の仮渡金があるので、買掛金全額を右仮渡金の内入れにしたので、三、〇〇〇円を差引く必要がなく、記帳していないのである。

(4)については、出張所から仕切書を作成して本店へその送金方を依頼してきたが、右には違算があつたので、本店では改めて仕切書を作成したうえ五四、七四四円を送金したものである。

(5)については、出張所では仕切書を作成したが支払をせず、本店から二回に亘つて送金したものである。

(6)については、一、二〇〇円は八月三一日仕切分の追加仕切金であつて、仕入帳(一三八頁)に記帳されてあつて、過不足はない。

以上のように、原告会社の帳簿には過不足はないのであるが、仮りに被告主張の如く、原告会社において所得を隠ぺいするためであれば、出張所の仕切額より本店の仕入額を過大に計上し、所得を少く記帳すべきであつて、仕入額を過少に計上して所得を多くする記帳の仕方をするはずがないのである。

五、について

原告会社は、昭和三二年八月つ訴外鳴門製氷冷蔵株式会社に保管していた塩ますを、一個当りの代金一、五五〇円手取りの指値にて訴外鳴門海産魚市場にその販売方を依頼していたが、同魚市場では、随時冷蔵会社から塩ますを出庫してこれを競売に付して売却したところ、総売上金額において原告の指値以上で売れたのであるが、原告会社は九月四日に指値通りに仕切金を受取り、同日の現金売上帳につぎのように実際の受取金額を記帳したものである。

塩ます 三三個 金額五一、一五〇円

六、について

昭和三二年五月九日大和善一に対する支払金二〇万円については、左の通り判取帳には二口に分けて受領されているのであつて、被告はこの点を看過しているのである。

一、金一〇万円 大和善一

一、金一〇万円 代理・海野商会藤坂利治

七、について

(一)、(1)(2)(3)については、いずれも過年度において各仕入先から商品を買入れ、それぞれ仮払金として大体の金額を送金していたが、商品が到着してみると不良品があつたので値引きを要求したところ、話しがつかないのでそのままにしてあつたが、本件係争事業年度において右値引が承認されるに至つたので、これを雑収入として記帳処理したものである。

(4)については、過年度において同商店とは相当額の売買等の取引きがあり、その内いまだ決済されていない分について照会したところ回答がなかつたため、本係争年度において左の通り精算して記帳処理したものである。

買掛金(同店よりの仕入分) 四六、九二〇円

仮受金(同店向積送品代二重入金) 二六、三六二円

計 七三、二八二円

委託売上品(同店向積送品代) 三八、四七一円

差引金(雑収入とする) 三四、八一一円

(5)については、過年度において同商店に対し買掛金を送金した際、原告方から同店向積送品代五、六〇〇円を差引いたが、後日同商店から五、六〇〇円を送金してきたので照会したところ回答がなかつたため、当期末においてこれを雑収入として記帳処理したものである。

(6)については、過年度において同店に対して冷蔵保管料の残金が未払となつていたが、これについて値引きを受けたのでこれを雑収入として記帳処理したものである。

(7)については、同店から積送品代を昭和三二年八月八日と八月二三日に受取つたので原告会社としては委託売上品として入金したが、この中には三、六〇〇円が二重に入金されていたので、期末においてこれを仮受金に振替えて記帳したものである。

(二)、被告の主張する(二)については、決算に際して、被告主張の如く売掛金元帳と総勘定元帳の売掛金残高が相違していたが、それも僅かの金額であつてしかもこれを調査するには多大の手数がかかるので、右差額分を雑損として振替整理したものである。

八、について

訴外里見一薫が原告会社の設立以来取締役社長として原告会社の業務運営をしていること、原告会社の本店が里見一薫の自宅内にあること、徳島出張所において作成された水揚帳仕切書が本店に回付されて記帳されていること、里見一薫がその所有の不動産を会社債務の担保に供していることはいずれも認めるが、その余の事実はすべて否認する。

原告会社の株主は里見一薫を含めて八名おり、その内松浦寛平が四、一〇〇株を、他の里見一薫・北原清・津川シゲノ・市原兵二郎・村井富三郎・池肩寿一・福有一一の各株主が各三、七〇〇株宛を所有しており、従つて里見一薫の持株は全体の八分の一に足りないのであつて、原告会社を里見一薫の同族会社であるということはできない。又、社長が会社の業務を運営し、社長の肉親の者がその業務の執行に協力することは当然のことであり、かつ又、会社役員が会社債務について自己の不動産を担保に供したからと云つて原告会社の経理関係に不正な点があると推測することは偏見に基づく間違つた判断であるというべきである。

九、について

(一)、里見一薫が里見ラク名義で有していた預金を被告主張の如く昭和三二年九月一七日に三分して預けかえたこと、後藤栄名義の預金口座に昭和三二年九月三〇日に三〇〇万円の入金が為されたことは、いずれも認める。

(1) 株主からの借入金の点については、本件訴訟提起前において原告は被告にその実状を説明し、被告もこれを納得了承してすでに解決していたことである。

原告会社は運営資金を株主から一時借入れていた(里見一薫から一〇〇万円、他の株主から一〇〇万円計二〇〇万円)が、その必要がなくなつたのでこれを株主に返金したものであつて、何等不当とされることはない。

(2) 旭丸の件については、当時原告会社は、訴外旭丸に対して金八七万三、二二〇円の債務を負担していたところ、旭丸から九月三〇日に取りにくると連絡してきたので里見一薫は会社の帳簿には支払記帳をのて右金員を預かつていたが、旭丸から都合により右取立が遅れるとの連絡があつたので、里見は右の内金八〇万円を一時預金し、残金七三、二二〇は現金で所持していたものであり、その後一〇月三日に右全額を旭丸に対して支払つたものである。右一〇月三日支払完了の事実については領収書もあり何ら問題とすべき点はない。

(3) 被告は、二〇万円について里見一薫にはかかる多額の手持現金はありえないと主張するが、仮りに被告主張の如く、里見が得る収入は原告会社から受ける収入のみであると限定したとしても、同人が九月分のみにおいて九万余円の余剰金があるとすれば、九月分以前において即ち八・七・六・五・四月の各月分においてこれと同等の余剰金を有していたとみるべきであり、又後記の如く、里見は普通預金としれ預けていたもので満期のため払戻を受けた現金が八十余万円もあつたこと等を考慮すれば、被告の右主張が誤つていることは容易に首肯できるものである。

(二)(1)  後藤栄名義および里見一薫の家族名義の普通預金の本件係争年度における増減状況が被告主張の通りであることは認める。しかしながら、里見一薫には同期中に約一〇〇万円の預金しうる余裕金があつたのである。即ち、

(イ)、里見は右普通預金の外に、里見ラクや里見房枝名義で四国銀行等に定期預金を有しており、これを昭和三二年四月一日以降つぎのとおりに払戻を受けている。

<省略>

(ロ)、さらに里見は、本件係争年度以前において、訴外村田克己に金五〇万円を貸付けていたが、昭和三二年四月・六月・八月の各中旬にそれぞれ五万円宛・合計二五万円の弁済を受け、これを所持していたのである。

里見一薫は、これらの金員の中から被告の主張する普通預金に預け入れたものであつて、被告主張の如く、右の増加額は原告会社の所得の一部ではない。

又、被告は、里見一薫およびその家族の収入は、原告会社からの給料・家賃・配当・利子以外にないと断定しているが、これはあまりにも形式的・皮相的であり、里見一薫等が当該事業年度以前から有していた金銭・債権その他の財産を全く考慮に入れていないのは、大きな誤りである。

(2)  被告はさらに、里見一家については普通預金の外に定期預金についても本件係争年度中に増加があり、又土地取得の事実もあるから、里見には余裕金があるはずはないと主張するが、被告が主張する右定期預金の増加額は、里見一薫の前記八三万余円の手持現金の内から支払われたものであり、又、被告主張の土地買受代金は里見ラクの普通預金から引出されて支払われたものであつて、いずれも原告会社とは関係のないものである。

第二・第三の主張に対して

原告会社の帳簿書類には取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載する等不合理な個所が多くあり、真実性が乏しいという被告の主張は、以上述べた通り何等根拠はなく理由がないので、第二・第三の右主張もその前提を欠く不当のものであることは明らかである。

(証拠関係)

原告訴訟代理人は、証拠として、甲第一号証の一ないし五、第二・三号証の各一・二、第四号証、第五号証の一ないし四、第六号証の一ないし五五、第七号証の一ないし三、第八号証の一ないし五、第九号証の一ないし九、同号証の一〇の一・二、同号証の一一ないし一四四、第一〇号証の一ないし三、第一一・一二号証の各一・二、第一三号証の一ないし四、第一四号証の一ないし九四、第一五号証の一ないし三、第一六号証の一ないし三、同号証の四の一・二、同号証の五六、第一七号証の一ないし三、同号証の三の二、第一八号証の一ないし三、第一九号証の一ないし一五、第二〇号証の一・二、第二一ないし二四号証、第二五号証の一ないし四、第二六・二七号証の各一二、第二八号証の一ないし三、第二九、三〇号証の各一・二、第三一号証の一ないし三、第三二号証の一ないし三、第三三号証の一ないし四、第三四・三五号証、第三六号証の一二、第三七号証の一・二を提出し、証人村田克己・同北原清・同福有一一・同里見富士夫の各証言並びに原告代表者本人尋問の結果を各援用し、乙号各証のうち、第二号証の一、第三号証の一・三・四・一五・一八の各成立および第三号証の一〇・一六・一七の各原本が存在することとその成立はいずれも知らない、第一号証の二、第二号証の二、第三号証の二・七・八、第七・八号証、第一〇ないし一三号証の各原本が存在することとその成立並びにその余の乙号各証の成立をいずれも認める、と述べ、被告指定代理人は、証拠として、乙第一・二号証の各一・二、第三号証の一ないし一八、第四ないし一五号証、第一六号証の一・二を提出し、証人小野義孝・同砂川瓢・同坪井博の各証言を援用し、甲号各証のうち、第二一・二四号証の各成立は知らない、その余の甲号各証の成立はいずれも認める、と述べた。

理由

第一、原告の請求原因一二三項の事実は当事者間に争いない。

第二、原告会社備付帳簿の記帳の真実性について

被告は、原告会社の備付ける帳簿書類には、取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載する等、当該帳簿書類の記載事項の全体についてその真実性を疑うに足りる不実の記載があり、原告会社の取引の実体を正確に記帳していないと主張し、原告はこれを争うので、この点について判断する。

一、被告主張の第一の一について

(1)  和田「トの分については、水揚帳(成立に争いない甲第五号証の二)には、

4/6 「五 荒マイリ 九四個

と記載されているが、さらにその下に赤字で、「内一袋弁天丸の依頼により第一銑鉄渡し、仕切より引くこと」と記載されているところ、徳島出張所の昭和三二年四月二〇日の仕切書(成立に争いない甲第一六号証の五)には

4/6 マイリ大 元九四個 個数九三 単価一八五、―金額一七、二〇五円

と記載されていること、そしてこれ等の記載と証人北原清の証言並びに原告代表者本人尋問の結果によれば、前記の水揚等の赤字部分の記載は四月六日以降同月二〇日までの間に記載されたものであつて本件係争年度末にはすでに記載されていたものであること、当初はマイリ九四個を仕入れたが、その後出荷主の依頼によつて一個返還したことにより、結局当該仕入数量が九三個となつたものであることを認めることができるから、この分についてはその記帳に何ら不合理な点はない。

(2)  福甚の分については、水揚帳(成立に争いない甲第五号証の四)には、

4/10 福甚 小羽大 個数二

〃 〃 大 〃 二

と記載されているのに、仕入帳(成立に争いない甲第六号証の二)には

4/10 大 個数二 替一六〇、―金額三二〇円

と記載されているのみで他の一項目が記帳されていないが、しかし仕切書(成立に争いない甲第一号証の四の一・二)によれば各の二項目分(各項目とも金額は三二〇円)について仕切処理が為されていること、各仕入帳(甲第六号証の二)の合計額三六、八九〇円の中には、各記帳落ちとされた三二〇円が含まれて計算されておることが明らかであるから、結局合計額においては仕入帳の仕入類と仕切書の仕切金額との間に相違がないことになる。

(3)  多田屋の分については、原告会社の帳簿に被告主張の如き記載が為されていることは当事者間に争いないけれども、水揚帳(成立に争いない甲第五号証の三)には

月一〆入一 花一〆入二 個数一 貫数三〆

と記載され、又仕入帳(成立に争いない甲第一四号証の三)には

月花一〆 個数三 替六五〇、―金額一、九五〇円

と記載されており、これ等の記載と証人北原清の証言並びに原告代表者本人尋問の結果によると、水揚帳記載の個数一は三貫目入りを一個と記載してあるのに対して仕入帳では一貫目入りを三個と記載したものであることが認められるから、結局双方とも仕入数量が三貫目であることに相違はない。

(4)  長谷川の分については、水揚帳(成立に争いない甲第一号証の二)にも

7/6 長谷川 塩サケ 六個

と記載されているから、この点について記帳漏れはない。

(5)  大喜の田分については、仕入帳(成立に争いない甲第九号証の二)にも

7/14 アジ 入目八〇〇 個数二 貫数一、六〇〇 替二二〇、―金額三五二円

と記載されその金額の計算も行われているから、この点についても記帳漏れはない。

(6)  籠家の分については、被告主張の如く水揚帳(甲第八号証の二)と仕入帳(甲第二五号証の二)の個数の記帳に差異があることは当事者間に争いないが、水揚帳(成立に争いない甲第八号証の二)及び仕入帳(成立に争ない甲第二五号証の二)と原告代表者本人尋問の結果によると、かかる差異が生じたのは、水揚帳から仕入帳に転記する際に不注意に水揚帳の次行に書いてある七個の個数を仕入帳に記載したことによるものであること、しかもその代金は七個分の代金(一個の単価は三二〇円)を支払つているものであることが認められるから、結局原告会社としては各記帳の誤りから実際の仕入数量より一個分の三二〇円を余分に支払つたことになるわけである。

(7)  近藤の分については、原告会社の水揚帳にマイリ五個の記載があるのに仕入帳にその記載が為されていないことは、当事者間に争いなく、原告代表者尋問の結果によると、それは水揚帳から仕入帳に転記する際の記帳落であることが認められる。

(8)  日下屋の分については、原告会社の水揚帳及び仕入帳にそれぞれ被告主張の如き個数の記載が為されていることは当事者間に争いないが、水揚帳(成立に争いない甲第八号証の三・四)によれば、各の七月三〇日欄に七個と記載されている後の八月一日欄に、赤字で

8/1 日下秀一 あじ子 六個 本人渡し

と記帳されていること、そして仕切書(成立に争いない甲第三七号証の一・二)によれば、昭和三二月八月八日付で

7/30 アジ子 一個 単価一二〇、―金額一二〇円

と仕切処理されているのであつて、これらの記帳と原告代表者本人尋問の結果によれば、結局当初はアジ七個を仕入れたがその後六個を仕入先に返還したことにより当該仕入数量が一個となつたので各のような水揚帳、仕入帳の記載及び仕切処理となつたものであることが認められるから、この点の記帳、仕切処理に不正確な点はないことになる。

(9)  村上の分については、原告会社の水揚帳、仕入帳に被告主張の如き個数の記載がなされていることは当事者間に争いない。

ところで仕切書(成立に争いない甲第七号証の二・三)によれば、この点についてまず最初になされた仕切りに際して

9/14 マイリ 四個 単価二三〇、―金額九二〇円

と仕切され、この代金は昭和三二年九月二九日に支払われているが、さらに昭和三二年九月三〇日の追加仕切りによつて

9/14 マイリ 五個 単価三五〇円 金額一、七五〇円

と仕切りの訂正が行われ、この内四袋分九二〇円がすにで仕切済として控除され、差引き八三〇円の代金が昭和三二年九月三〇日に支払われていること、

これにともなつて仕入帳(成立に争いない甲第一〇号証の二)についても、九月一四日、個数四個、金額九二〇円と記帳された後に、その頁の最後の欄に

9/14 値チガイ分 一個 八三〇円

との追加記帳が行われ、各追加分については九月三〇日にその支払が行われているものであることがそれぞれ認められ、これらの記載に原告代表者本人尋問の結果によれば、このような記帳処理が行われたのは、仕入帳に五個と記載すべきところを不注意で四個と記載したのを後から発見し、かつ単価の記載にも誤りがあつたので、これ等を後から訂正して追加記帳したことによるものであることが認められるから、結局この点については水揚帳、仕入帳ともその個数の記帳に相違がないことになる。

(10)  大橋の分については、原告会社の水揚帳、仕入帳に被告主張の如き個数の記載がなされていることは当事者間に争いないけれども、仕入帳(成立に争いない甲第九号証の五)によれば、各の仕入分を含めた昭和三二年九月二一日の仕入分全部について赤字で「返送」と記入され、その分については金額欄にも金額の記載がなく、従つてその分については金の支払もなされていないものであることが認められ、これに原告代表者本人尋問の結果を綜合すると、この分は当初イ丸干を三個仕入れたのであるが、その後これを全部仕入先に返還しているものであることが認められるから、結局この分の記帳の相違は取引金額に何ら影響のないものである。

(11)  そうすると、被告において水揚帳と仕入帳の記載に不突合があると指摘する個所については、実際の仕入数量が六個であるのに仕入帳に七個と記帳し七個分の代金の支払をしている一個所(前記(6))と仕入帳に記載漏れのある一個所(前記(7))の二個所が不突合ということになるが、原告会社のような記帳の仕方をする場合には、不注意からそのような記帳誤や記帳漏れのあることも考えられないではないから各程度の不突合があるからと云つて、原告会社の帳簿全体が信用できないものと認めることはできない。

二、被告主張の第一の二について

(1)  四月分

四月分の仕入勘定集計額が四、九九七、九三九円であることは当事者間に争いない。被告は、これと買掛帳(仕入帳)集計額四、九九五、四七四円との間に二、四六五円の過不足があると主張し、原告は各不足分は、本件係争年度以降において値引返送があつたもので、本件係争年度末においては右値引はいまだ生じていなかつたものであるから同年度末において不足はないと主張するので、判断すると、仕入帳(成立に争いない甲第六号証の五)の柴田商店との取引部分には

4/18 マイリ 一〆 二六個 替四〇〇、―金額一〇、四〇〇円

と記帳されていたのが、右のうち「替四〇〇、―金額一〇、四〇〇円」とある部分が赤線で抹消され、続いて次行に「改、替三〇〇、―金額七、八〇〇円」と記帳され、かつ、昭和三三年五月二日支払済と記入されているところ、原告代表者本人尋問の結果によると、右は本件係争事業年度以後において当初の単価が四〇〇円であつたものを三〇〇円に値引きしてもらつたことによつて記帳の訂正を行つたものであることが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。そうすると本件係争年度末の決算期においてはこれ等の値引はいまだ行われていなかつたものであるから、仕入帳の値引はいまだ行われていなかつたものであるから、仕入帳の集計を為すに当つては右の値引分を控除すべきではなく従つてこれを含めて四月分の仕入帳(いずれも成立に争ない甲第六号証の二ないし五五、第一四号証の三、同号証の五ないし一六)を集計すると、その合計は四、九九七、九三九円となるから、四月分の仕入勘定集計額と買掛帳の集計額に被告主張のような過不足はないことになる。

(2)  六月分

六月分の仕入勘定集計額について被告は七、七一三、〇六四円であると主張し、原告は七、七一三、七二〇円であると主張するところ、総勘定元帳(成立に争がない甲第三号証の四)と北灘仕入帳(成立に争ない甲第二五号証の五ないし一五)によると、原告会社の昭和三二年六月における総仕入勘定集計額の総計は八、一三七、二二〇円であり、そのうち北灘からの仕入金額は四二三、五〇〇円であることが認められるから、北灘からの仕入金額を除いた同月分の仕入勘定集計額は原告主張のとおりの七、七一三、七二〇円である。

さらに、六月分の買掛帳集計額について被告は七、七一〇、六二〇円であると主張し、原告は七、七一三、七二〇円であると主張し、その間に三、一〇〇円の差異があるけれども仕入帳(成立に争いない甲第一四号証の四)の柴田商店との取引部分には、

6/16 サ桜干 個数二〇 替五五〇、―金額一一、〇〇〇円

と記載されていたのが、右のうち「替五五〇、―金額一一、〇〇〇円」とある部分が赤線にて抹消され、続いて次行以下に「改、替四〇〇、―金額八、〇〇〇円」「通信費一〇〇円」「差引合計金額七、九〇〇円」と各記帳され、かつ、昭和三三年五月二日支払済と記入されているところ、原告代表者本人尋問の結果によれば、右は本件係争事業年度以後において柴田商店から当初の単価が五五〇円であつたものを四〇〇円に値引してもらい、かつ通信費一〇〇円についても値引を受けたことによるものであつて、右の記帳の改正は支払を為した昭和三三年五月二日に行われたものであることを認めることができ、右認定を覆すに足る証拠はない。そうすると本件係争年度末の決算期においては、右の値引はいまだ行われていなかつたものであるから、仕入帳の集計をなすに当つては右の値引分を控除すべきではなく、従つて右の値引分をも含めて六月分の仕入帳(いずれも成立に争がない甲第一四号証の一七ないし九四。同号証の四、甲第九号証の七ないし九、同号証の一〇の一・二、同号証の一一ないし第二)を集計すると、その合計額は七、七一三、七二〇円となるから、同月分における仕入勘定集計額と買掛帳集計額との間に被告主張のような過不足はないことになる。

(3)  七月分

七月分の仕入勘定集計額が五、〇七五、八〇五円であることは当事者間に争いない。

被告は同月の買掛帳集計額が五、〇七五、八三九円であるから、買掛帳では三四円が過大計上されていると主張し、原告はこの点を争うので判断すると、仕入帳の七月分(成立に争ない甲第九号証の二六ないし八四、同号証の二)の仕入金額を集計するとその合計額は五、〇七五、八〇五円となるから結局双方の集計額に被告主張のような過不足はない。

(4)  八月分

八月分における仕入勘定集計額と買掛帳集計額との間に被告主張の如く三〇円の差異があることは当事者間に争いない。

(5)  九月分

九月分の仕入勘定集計額が八、七五二、六〇九円であることは当事者間に争いない。

被告は同月の買掛帳集計額が八、七四〇、九二九円であるから、その間に一一、六八〇円の不足があると主張し、原告は右不足分は本件係争年度以降において値引があつたもので、本件係争年度末においては右値引分はいまだ生じていなかつたものであるとしてこれを争うので、判断するに、仕入帳(成立に争いない甲第九号証の六)のカ北原との取引部分には、

9/28 マイリ 個数三八六 替二七〇、―金額一〇四、二二〇円

と記帳されていたのが、右のうち「替二七〇、―金額一〇四、二二〇円」とある部分が赤線にて抹消され、続いて次行に「改、替二四〇、―金額九二、六四〇円」と記帳され、かつ、昭和三三年四月一四日支払済と記入されているところ、原告会社代表者本人尋問の結果によれば、右は当初の仕入れ単価が二七〇円であつたものを、交渉の結果、右支払の昭和三三年四月一四日当時には単価を二四〇円に値引してもらつたので右の改訂を行つたものであることを認めることができ、右認定を覆すに足る証拠はない。そうすると、本件係争年度末の決算時における買掛金集計額を算出するに当つては、右値引合計額一一、五八〇円を控除すべきではないからこの値引分をも含めて仕入帳の九月分(成立に争がない甲第九号証の八五ないし一四四、同号証の五・六)の仕入金額を合計すると、その合計は八、七五二、六〇九となるから、結局同月分の仕入勘定集計額と買掛帳集計額との間に何ら過不足はないことになる。

(6)  してみると、被告において仕入勘定集計額と買掛帳集計額との間に過不足があると主張する個所のうち、八月分についてのみその集計額に三〇円の過不足があることになるが、それも僅か三〇円で原告もいうように計算の誤とみられる程度のものであるから、右金額程度の差異があるからといつて、これだけから直ちに原告会社の帳簿全体の記帳状況が措信できないといううことはできない。

三、被告主張の第一の三について

原告会社が、訴外日本冷蔵株式会社高知支社(以下高知日冷と称する)から受取つた歩戻券を現金として取扱い、これを高知日冷に対する買掛金の支払等に充当していたことは当事者間に争いない。

(一)、昭和三二年六月二九日、高知日冷に対する買掛金二三六、八三〇円の支払について、現金出納帳には全額の支払が為されたように記帳されているが、領収証には二二九、三三〇円の金額しか記載されていないこと、現金出納帳に二、五〇〇円が雑収入として記帳されていることは、いずれも原告の明らかに争わないところである。

ところで、仕切書(成立に争いない甲第三二号証の二・三)によると、歩戻券五〇〇枚を七、五〇〇円に換算して高知日冷に支払うべき金額からこれを差引いており(即ち、甲第三二号証の二・三の二枚の仕入合計額二四二、六四〇円から返品運賃等による控除金五、八一〇円を差引いた二三六、八三〇円からさきに歩戻券五〇〇枚を七、五〇〇円に換算してこれを差引いた残金二二九、三三〇円について仕切処理が行われている。)。かつ「歩戻券五〇〇枚別便にて送ります」と記載されていることが認められるところ、これに原告代表者本人尋問の結果並びに前記当事者間に争いない事実を綜合すると、歩戻券とは、高知日冷が一定量の買上げをした小売業者に対して一枚につき一〇円宛を買入代金から引戻して支払うために仕入商品の中に入れておくものであるが、原告会社では、小売業者が高知日冷に対して請求すべき歩戻券について一時これを小売業者に立替支払を為し、取得した歩戻券は一枚につき一〇円の現金とみなして処理していたので、これ等のことは帳簿上には記載されていないこと、右の歩戻券にはこれとは別に高知日冷から問屋である原告社会に対して一枚につき五円宛の手数料が支払われることになつていたこと、従つて、昭和三二年六月二九日の高知日冷に対する前記買掛代金の支払については、原告会社が高知日冷に対して支払うべき仕入代金二三六、八三〇円から歩戻券五〇〇枚に対する立替金五、〇〇〇円および手数料二、五〇〇円の合計七、五〇〇円を控除した残金二二九、三〇〇円を現金で支払い、右七、五〇〇円については歩戻券五〇〇枚を高知日冷に返還することによつて右の内金に充当したものであること、そして歩戻券に対する手数料二、五〇〇円については原告会社の雑収入として記帳処理されているものであることが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。右によれば、原告会社としては、結局歩戻券の立替支払についての記帳処理を省略したものであるということができるが、これの故をもつて原告会社の帳簿に不実の記載ないし右歩戻券の処理に不合理があるということはできない。

(二)、昭和三二年九月一〇日、高知日冷に対する買掛金六四、八三五円の支払について現金出納簿には全額の支払が為されたように記帳されているが、領収証には五八、三八五円の金額しか記載されていないことは、いずれも原告の明らかにて争わないところである。

ところで、仕切書(成立に争いない甲第三一号証の二・三)によると、歩戻券六四五枚を六、四五〇円に換算して高知日冷に支払うべき金額からこれを差引いており(即ち、甲第三一号証の二・三の二枚の合計仕入額二〇三、一四〇円から前渡金一三六、二二〇円返品二、〇八五円および歩戻券六四五枚六、四五〇円を控除した残金五八、三八五円について仕切処理が行われている。)。かつ「歩戻券六四五枚別便にて送ります」と記載されていることが認められるところ、これに原告代表者本人尋問の結果並びに前記当事者間に争いない事実を綜合すると、右も前記(一)の場合と同様に(ただしこの分については原告会社が受取るべき手数料はない)、原告会社が高知日冷に対して支払うべき仕入代金六五、八三五円から、歩戻券六四五枚に対する立替金六、四五〇円を控除した残金五八、三八五円を現金で支払い、右六、四五〇円については歩戻券六四五枚を高知日冷に返還することによつて右の内金に充当したものであることが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。従つて、右の点に関しても原告会社の帳簿に不実の記帳ないし右歩戻券の処理に不合理があるということはできない。

四、被告主張の第一の四について

原告会社が徳島市富田浜一丁目に出張所を設置していること、右出張所における取引については出張所において仕入先毎の仕切書を作成して支払等を行つていること、本店においては出張所が作成した仕切書の回付を受けてその写しを作成し、本店の帳簿に記帳することにしていることは、いずれも当事者間に争いない。

(1)  橋塚の分について

出張所の仕切書(成立に争いない甲第一六号証の六)によると、昭和三二年五月四日の仕切りとして

4/21 汐若布 一二〆入 個数 五 貫数六〇〆 単価六八〇、― 金額四〇、八〇〇円

5/2 焼フ 一〆入 〃二―二五 五〇〆 単価二七〇、― 金額一三、五〇〇円

と記帳され、かつ右合計額五四、三〇〇円から通信送金料一〇〇円、売掛金一二、一三〇円を控除して、差引手取金四二、〇七〇円として仕切処理されているところ、他方、本店の仕入帳(いずれもその成立に争いない甲第六号証の三・甲第一四号証の二)にも

4/21 塩若布 一二〆入 個数五 貫数六〇 替六八〇、― 金額四〇、八〇〇円

5/2 ヤキフ 一〆入 個数五〇 替二七〇、― 金額一三、五〇〇円

とそれぞれ仕入記帳されていることが認められるから、この点について記帳漏はない。

(2)  二川静子の分について

出張所の仕切書(成立に争いない甲第一六号証の二)によると、昭和三二年五月五日の仕切りとして

4/30 干カナギ 一〆入 個数一四二 一〆入 個数一四七 貫数二八九〆 単価二八〇 金額八二、九二〇円

4/20 干カナギ 一〆入 〃 五―五

〃 六―一 〃 三一 〆単価三〇〇 金額 九、三〇〇円

と記帳され、かつ右仕入合計額九二、二二〇円から運賃配達賃二四〇円を控除して、差引手取金九一、九八〇円として仕切処理され、かつ、赤字で「本社より送金」と記載されていること、他方、本店の仕入帳(成立に争いない甲第一四号証の一一)には、

4/29 カナギ 一〆入 個数 三一 替三〇〇 金額九、三〇〇円

4/30 カナギ 一〆入 個数一四二

一四七 二八九 替二八〇 金額八〇、九二〇円

と記載され、さらに右仕入合計額九〇、二二〇円から運賃二四〇円・通信費二五〇円を差引いた八九、七三〇円として仕入記帳されており、かつ本店の仕切書(成立に争いない甲第一九号証の二)にも右仕入帳の記載と同様の仕切記帳が行われていることが、それぞれ認められるところ、これ等に原告代表者本人尋問の結果を綜合すると、出張所では右の仕切書(甲第一六号証の二)を作成して本店に回付してきたが、右仕切金額の支払は本店においてこれを為すように依頼してきたこと、前記の如く出張所の仕切記帳額と本店の仕入記帳額に差異が生じたのは、四月三〇日の二八九個のカナギを二八〇円の単価で乗ずるとその金額が八〇、九二〇円となるのに、出張所の仕切書には誤つてこれを八二、九二〇円と記入あれていたが、回付を受けた本店ではこの点に気がついて正しい金額によつた仕切書を作成しての支払を為したことによるものであることが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。従つて、出張所の記帳額が誤記であるのに対して本店では正しい記帳が為されていることになる。

(3)  新1大の分について

出張所の仕切書(成立に争いない甲第一六号証の三)によると、昭和三二年五月六日の仕切りとして、仕入合計額が三〇、二八五円と記帳され、かつこれから前渡金三、〇〇円を控除して差引手取金二七、二八五円について仕切処理され、これとは別に赤字で「仮渡振替」と記載されていること、他方、本店の仕入帳(成立に争いない甲第一四号証の八)によると、仕入合計額が三〇、二八五円と記帳され、又本店の仕切書(成立に争いない甲第一九号証の三)によると、昭和三二年五月六日の仕切りとして、仕入合計額が三〇、二八五円と記帳されているがその全額が仮渡分入金として仕切処理されていること、そして仮渡金記入帳(成立に争いない甲第三〇号証の二)によると、五月六日に収入金額として三〇、二八五円が記帳されていることが、それぞれ認められるところ、これに原告代表者本人尋問の結果を綜合すると、原告会社は、新1大に対してかなりの前渡金(仮渡金)があつたので、新1大に対して支払うべき右仕入代金を右の前渡金の内入金として処理することにしたため、出張所の仕切りを本座において仕切り直し、右前渡金と仕入代金とを振替処理して記帳したものであることが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。そうすると、出張所の右仕切金額と本店の仕入額に相違があるからと云つてこのことは何ら原告会社の会計処理に不正があることを意味するものではないということになる。

(4)  佐々木の分について

出張所の仕切書(成立に争いない甲第一七号証の二)によると、昭和三二年五月一四日の仕切りとして、仕入合計額が五七、五四四円と記帳され、これから運賃七〇〇円を控除して差引手取金五六、八四四円として仕切記帳されており、かつ、赤字で「本社より送金願います」と記載されていること、他方、本店の仕切書(成立に争いない甲第九号証の四)によると、昭和三二年五月一六日の仕切りとして仕入合計額が五五、四四四円と記帳され、これから運賃七〇〇円を控除して差引手取金五四、七四四円として仕切記帳されているところ、右の如く両者の金額に差異が生じたのは、出張所の仕切書(甲第一七号証の二)では、そのうちの一項目に

3/6 開鯖 個数七〇 単価二三〇 金額一六、一〇〇円

として記載されているのに、本店の仕切書(甲第一九号証の四)では、そのうちの一項目に

3/6 開鯖 個数七〇 単価二〇〇 金額一四、〇〇〇円

と記載されておつてその単価が相違していることによるものであることがそれぞれ認められ、これに原告代表者本人尋問の結果を綜合すると、右仕入代金の支払は出張所の依頼によつて本店で行つたのであるが、本店にて仕切書を作成するに当つて出張所の記帳単価に誤りがあつたので、本店においてこの点を訂正して仕切記帳し、これに従つて代金の支払を為したものであることが認められるから、右記帳の相違は原告会社の会計処理に不正があることを意味することにはならない(もし売上除外を意図するものであれば実際の支払を為した本店の仕切書の仕入金額を過大に計上すべきはずで、従つて前記の単価を訂正する必要はないということになる)。ものである。

(5)  清村文三郎の分について

出張所の仕切書(成立に争いない甲第一七号証の三・同号証の三の二)によると、昭和三二年五月二七日の仕切りとして、五月二二日および五月二七日各仕入れの二枚分の合計仕入額が二四一、四四〇円と記帳され、これに一袋につき一〇円宛の集荷手数料八一九袋分八、一九〇円を加算した二四九、六三〇円について仕切記帳されており、かつ、赤字で「本社より送金願います」と記載されていること、他方、本店の仕切書(成立に争いない甲第一八号証の二・三)によると、甲第一八号証の二の仕切書には、昭和三二年五月二五日の仕切りとして、手数料四、二八〇円を加えた五月二二日仕入分の仕入合計額一二九、七一五円と記帳されているとともに、甲第一八号証の三の仕切書には、可月二七日の仕切りとして、集荷手数料三、九一〇円を加えた五月二七日仕入分の仕入合計額一一九、九一五円と記帳されており、その仕切りが二回に亘つて行われていること、をそれぞれ認めることができ、これに原告代表者本人尋問の結果を綜合すると、出張所では、五月二二日仕入分と五月二七日仕入分の双方につき一回にまとめて仕切処理をするとともに、五月二七日にその支払方を本店に依頼してきたので、本店においてはこれより先の五月二五日に、五月二二日仕入分について仕切記帳をする(甲第一八号証の二)とともにその支払を済ませていたので、出張所から仕切書が回付されてきたときには五月二七日仕入分についてのみ仕切記帳をする甲第一八号証の三とともにその支払を為したものであることを認めることができ、右認定を覆すに足る証拠はない。従つて双方の仕切金額には相違がないことになる。

(6)  喜辰の分について

出張所の仕切書(成立に争いない甲第二八号証の三)によると、昭和三二年九月一〇日仕切りとして、

8/31 マイリ 四〇〆 単価三〇 金額一、二〇〇円

と記帳され、かつ、「追加仕切」と記載されていること、これに対して本店の仕切書(成立に争いない甲第三六号証の二)によると、昭和三二年九月一〇日の仕切りとして、

8/31 マイリ 四〇〆 単価 三〇 金額一、二〇〇円

6/24 小羽 八〇〇〆 個数二 単価四一〇 金額 六五六円

仕入合計額一、八五六円と記帳され、かつ、「追加仕切」と記載されていること、又、本店の仕入帳(成立に争いない甲第九号証の四)によると、「追加仕切」として一、二〇〇円が加算して計算されていることがそれぞれ認められ、これに原告代表者本人尋問の結果を綜合すると、出張所の仕切額一、二〇〇円については、九月一〇日に本店の仕入帳および仕切書に追加仕切りとして記帳されており、被告が主張する本店の仕入額六五二円は右の仕入分とは別個の仕入分についての記帳であることを認めることができ、右認定を覆すに足る証拠はない。従つて、出張所の仕切と本店の仕入帳との間に記帳上の差異はないものである。

(7)  してみれば、出張所の仕切額と本店の仕切額と本店の仕切額との間に過不足があり、或は出張所の帳簿に記載があるのに本店の帳簿に記載がないことを理由に原告社会の帳簿全体についてその真実性に疑があるとする被告の主張は採用できない。

五、被告主張の第一の五について

原告会社の売上帳に、昭和三二年九月四日、訴外株式会社鳴門海産魚市場に対する売上金として五一、一五〇円の記帳が為されていることは当事者間に争いない。

被告は、原告会社の右訴外会社に対する右の売上金額は五二、三〇九円であると主張し、証人坪井博の証言によつて原本の存在とその成立を認める乙第三号証の一六・一七によると、右訴外会社の出金伝票には、原告会社に対しては昭和三二年九月四日に合計五二、三〇九円の支払を為した旨の記載が為され、証人坪井博の証言中にもこれに添う趣旨の供述部分があるけれども、他方、証人里見富士夫の証言並びに原告代表者本人尋問の結果を綜合すると、右訴外会社に対する原告の右売上金は塩マス三三簡分の売上分であるが、原告は同訴外会に対し社て右塩マスを一箱につき手取金一、五五〇円宛の指値でその販売を委託し、これにより同訴外会社においてこれをセリ売りにかけて売却した結果、原告の指値以上の金額でこれが売却されたが、原告としては右のように指値で販売を委託した関係から指値合計額金五一、一五〇円の支払を受けたものであることを認めることができ、右認定に反する証人坪井博の証言はにわかにはこれを措置することはできない。

右によれば、原告会社が訴外会社から支払を受けた金額は、原告会社が指定した指値分の合計五一、一五〇円であり、原告会社の帳簿には右の金額が記受されているのであるから、この点について原告会社の帳簿に記帳の誤りはない。

六、被告主張の第一の六について

被告は原告会社が昭和三二年五月一〇日、訴外大和善一に対して仕入代金を仮渡した際、原告会社の支払伝票によれば現金二〇万円を支払つたように記載されているのに、原告方の判取調には、昭和三二年五月九日一〇万円の受取証があるのみで、その差額一〇万円の処理が帳簿上明らかでないと主張するけれども、原告会社の判取帳(成立に争いない甲第二号証の一・二)と証人北原清の証言並びに原告代表者本人尋問の結果を綜合すると、判取調の昭和三二年五月九日付前記大和善一の一〇万円の受取証の次の行に、同日付の海野商会藤坂利治が金一〇万円を大和善一分として受取つた旨の受取証の記載があり、右は、原告が大和善一に支払うべき二〇万円の内一〇万円を大和善一の依頼によつて海野商会に支払つたものであることが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。従つて、二〇万円全額について受取記帳が為されているものであるから、被告の右主張は理由がない。

七、被告主張の第一の七について

(一)について、(1)(2)(3)の増幸・村上・坂戸の分については、原告方の帳簿に被告主張の如き記帳が為されていることは原告の明らかに争わないところであるが、原告代表者本人尋問の結果によれば、これ等の買掛金はいずれも本件係争年度以前において商品を仕入れていたものであるが、その仕入れ商品の中に一部不良品等があつたので、原告会社としてはこれ等の仕入先に対しては右仕入代金の一応の金額を仮払金として支払うとともに、右不良品等の点については値引を受けるように交渉した結果、本件係争年度においてその一部について値引きが認められ、その値引分については支払う必要がなくなつたので、その分を雑収入として記帳処理したものであることが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

もし右の記帳が、被告主張の如く、原告において利益を調節するために行われたものとすれば、むしろ右の如く値引分を雑収入として記帳せず、買掛金の金額について支払が行われたように記帳するはずであろうから、右の記帳をもつて利益を調節したものと推認することはできない。

(4)の<金>の分については、原告方の帳簿に被告主張の如き記帳が為されていることは当事者間に争いないが、原告代表者本人尋問の結果によれば、原告会社は従前から金商店と相互にかなりの取引があつたが、本件係争年度末において、原告会社の買掛金四六、九二〇円、仮受金二六、三六二円(相手方から二重に送金があつたものを仮受金として計上処理していたもの)および原告会社が相手方に対して有する委託売上品代三八、四七一円があつたので、原告会社が相手方に対してその決済について照会したが相手方から回答がなかつたので、右の差額三四、八一一円を雑収入として清算し、その旨の記帳処理をしたものであることが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。右の記帳が原告において利益を調節するために行つたものとするならば右差額分については雑収入として記帳しないはずであろうから、これをもつて利益を調節したものと推察することはできない。

(5)の大長の分については、原告方の帳簿に被告主張の如き記載が為されていることは原告の明らかに争わないとこるであるけれども、原告代表者本人尋問の結果によれば、原告会社と大長との間には相互に取引があり、本件係争年度において清算したところ、原告会社が大長から支払を受けるべき金額五、六〇〇円を差引いて残金を大長に送金したところ、同店において五、六〇〇円を再び原告に送り戻してきたので、原告において照会したが回答がなかつたためこれを仮受金として記帳するとともに、期末にこれを雑収入として処理したものであることを認めることができ、右認定を覆すに足る証拠はない。

(6)の呉冷蔵の分については、原告方の帳簿に被告主張の如き記帳が為されていることは原告の明らかに争わないところであるけれども、原告代表者本人尋問の結果によれば、原告会社では、呉地方で仕入れた商品については、呉冷蔵に委託して保管していたが、過年度における右冷蔵保管料の未払金の内金八、二五〇円について値引きを受けたので、これを雑収入として処理したものであることを認めることができ、右認定を覆すに足る証拠はない。

(7)の大熊の部分についても、原告方の帳簿に被告主張の如き記帳が為されていることは当事者間に争いないが、原告代表者本人尋問の結果によれば、原告会社が大熊から入金を受けた委託売上品代の内三、六〇〇円が二重に入金されたので、同店に対してこれを照会したが回答がなかつたため、これを仮受金として処理したものであることを認めることができ、右認定を覆すに足る証拠はない。

そして右の(5)(6)(7)の場合についても、前記(1)ないし(4)の場合と同様に、右の記帳が利益の調節を目的として行われたものと推認することはできない。

(二)について、原告会社の帳簿に、被告主張の如く振替記帳が行われていることは当事者間に争いない。被告はその原因が不明であると主張するところ、原告代表者本人尋問の結果によれば、原告方では、総勘定元帳の売掛金勘定には伝票の合計とその日その日の売掛金の合計額とを計上しているのであるが、右の売掛金勘定とこれとは別にある取引先毎の売掛金元帳の九月末における合計残高に二、四九円の差異があつたので、原告会社としては右の金額も少く、かつ多量の取引の中から右程度の誤差が生じたことについてその原因を調査するとかなりの手間と時間を要するので、総勘定元帳の金額を売掛金元帳の金額に合せるために、右の差額二、〇四九円を雑損として記帳処理したものであることが認められる。

もつとも右の如く記帳に誤差が生ずること自体集計々算或は記帳が必ずしも正確に行われていないことを意味するのではあるけれども、原告会社の如き商品の取扱をなす場合において、しかも弁論の全趣旨及び原告代表者本人尋問の結果から認められるように原告会社の年間の取引高が一億円以上にも達するものであるような場合には不注意によつて多少の記帳上の誤差が生じることもあり得ないことではないし、この場合に原告会社が行つたような方法で処理することも、その数額が全体の取引額の中に占める程度によつては、あながち許されない方法であるとも思われない。そして右の差異を生じた数額も僅か二、〇四九円の少額で不注意から生じたものと考えられる程度のものであるから、この程度の過不足が出たからと云つて、このことから原告方帳簿の全体が粗雑で措信できないということはできない。

八、被告主張の第一の八について

訴外里見一薫が原告会社の設立以来取締役社長として原告会社の業務を運営していること、原告会社の本店が里見一薫の自宅内にあること、徳島出張所において作成された水揚帳・仕切書が本店に回付されてさらに記帳が為されていること、里見一薫がその所有の不動産を原告会社の債務の担保に供していることは、いずれも当事者間に争いなく、又、証人里見富士夫・同北原清の各証言並びに原告代表者本人尋問の結果を綜合すると、原告会社は戦時中の統制が行われた後、昭和二四年一二月に同業者数名が同等の割合で出資して設立した会社であること、原告会社の営業活動は主としてもつぱら徳島出張所において行われ、年間の取引高は約一億数千万円に及んでいること、原告会社では出張所から回付されてくる仕切書等に基いて本店において改めて同様の帳簿に記帳しかつ元帳に記帳しているものであるが、右の事務はもつぱら主として原告会社の社長里見一薫ないしはその子里見富士夫および里見良幸がこれを為していること、をそれぞれ認めることができるけれども、これらのことから直ちに里見一薫が帳簿の記帳に操作を施しているということはできないし、他に被告主張の事実を認めるに足る証拠はないから被告の右主張も採用できない。

九、被告主張第一の九について

(一)、里見一薫が、昭和三二年九月一七日、かねて四国銀行鳴門支店に預け入れていた妻里見ラク名義の普通預金六八五、九八七円を同行においてこれを三分し、この内三〇万円を次男の妻里見繁子名義の普通預金に入金し、内二〇万円は改めて里見ラク名義の普通預金口座を設けてこれに入金し、さらに残額に手持現金を加えた一九万円を後藤栄なる架空人名義の普通預金口座を設けてこれに入金したこと、本件係争年度の期末である昭和三二年九月三〇日、右後藤栄名義の預金口座に三〇〇万円の入金が為されたことは、いずれも当事者間に争いない。

(二)、そして、右三〇〇万円の内金二〇〇万円は、各株主が原告に貸付けていた資金(里見一薫の分一〇〇万円、他の株主の分一〇〇万円)を、原告が各株主に返済した如く原告会社の帳簿に記帳して右預金口座に入金されているものであつて、右の金額は翌事業年度の期首である昭和三二年一〇月二日に右預金口座から引出されて、再び原告に対する各株主の貸付金として原告会社に入金・記帳されていることも、当事者間に争いないところ、その方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第三号証の一、原本の存在することとその成立に争いない同号証の二、証人福有一一・同北原清の各証言、並びに原告代表者本人尋問の結果を綜合すると、原告会社は、従前から営業の資金に充てるため各株主から金員を借受けていたこと、原告会社の代表者里見一薫は、原告が銀行から融資を受けるについては銀行から年度末の決算表の提示を求められるので、その際個人からの借入金があるということは融資を受ける上に好ましくないと考えて、毎期末にはこれ等の借入金を各株主に返済した如く帳簿上の処理を為し、その金を一時自己がこれを保管しておき、翌事業年度の期首に再びこれを各株主から借入れたように記帳処理して右金額を会社に入金していたこと、本件の右二〇〇万円も右の趣旨の下に行われたのであつて、これを一時後藤栄名義の預金口座に入金していたものであること、これら原告の各株主からの借入金が架空のものでないことは、原告の申立にかかる審査の請求に対して高松国税局長が為した決定においても認められていること、をそれぞれ認めることができ、右認定を覆すに足る証拠はない。

以上の事実によれば、右の株主から借入金が架空のものではないから、これをもつて原告会社の利益が隠ぺいされているということはできず、又、右の如き記帳処理が為されているからといつて、これをもつて原告会社の所得の一部を仮装・隠ぺいするために為されているということもできない。

(三)、つぎに、前記後藤栄名義の預金口座に入金された三〇〇万円の内八〇万円については、原告会社の帳簿では原告会社の仕入先である訴外旭丸に対する買掛金八七三、二二〇円の支払をした如く記帳し、その内の八〇万円が右の預金口座に入金されたものであることは、当事者間に争いないところ、証人福有一一の証言並びに原告代表者本人尋問の結果によると、原告会社の旭丸に対する買掛金債務八七三、二二〇円については、本件係争年度末頃、旭丸から右代金の受取りにくるからという連絡があつたので、原告会社としては右についての支払記帳を済ませてこれを待つていたところ、その後になつて旭丸から二・三日遅れて受取りに行くという連絡が入つたので、原告会社代表者里見一薫が一時これを保管することにしてその内の八〇万円を前記後藤栄名義の預金口座に入金し、残額は手持現金として所持していたが、一〇月三日頃、旭丸が右代金の受取りにきたので、里見一薫は右預金口座から八〇万円を引出すとともに手持現金の分と合せて右代金八七三、二二〇円を旭丸に対して支払つたものであることを認めることができ、右認定を覆すに足る証拠はない。

右の事実によれば、右の旭丸に対する買掛金の支払が架空のものではないから、これをもつて原告会社の利益が隠ぺいされているということはできず、又、右のような記帳処理が為されているからといつて、これをもつて原告会社の所得の一部を仮装・隠ぺいするために為されたということもできない。

(四)、さらに被告は、前記三〇〇万円の内二〇万円については、里見一薫及びその家族らの九月分の収入は一一二、〇〇〇円であり、生活費その他の出費を控除すればかかる多額の手持現金があつたとはとうてい考えられないから右は原告会社の所得を隠ぺいしたものと推定すべきであると主張するけれども、九月分の収入支出のみをみてそのように云うことの不当であることは、正に原告が被告の主張に対する答弁として九の(一)の(3)において述べるとおりであるから、右出張は理由がない。

(五)、次に被告はその主張する預金等の増加額はこのような預金等をなし得る余裕がないのになされているのであるから、この増加額は原告会社の所得の一部を隠ぺいしたものと推定せざるを得ない旨主張するので、この点について判断すると、

(1) 先ず、里見一薫及びその家族名義の預金等の本件係争年度内における増加額をみるに、

(イ)、本件係争年度内における里見一薫の家族および後藤栄の名義の銀行預金の増加額が、被告において第一の九の(二)の(1)において主張するとおりの二、五二五、〇八二円および同第一の九の(二)の(2)の(イ)において主張するとおりの三五五、七一二円あることは原告の明らかに争わないところである。

ところが前者の中には、前記(二)において認定したように里見一薫以外の株主からの借入金に対する返済金として後藤栄名義の預金に入れられた一〇〇万円および前記(三)において認定したように旭丸に対する支払代金分八〇万円が含まれており、かつその他に預金利息金七、八六四円が含まれていることは被告の自から認めるところであるから、これ等を控除すると、その増加額は七一七、二一八円となり、又いずれも原本の存在とその成立に争いない乙第一一・一二号証によると、後者の中には預金利息金九一八円が含まれていることが認められるから、これを控除するとその増加額は三五四、七九四円となり、従つて両者についてこれを合計すると、結局一、〇七二、〇一二円が本件係争年度内において手持金により預金された増加額であるということになる。

(ロ)、右の他、昭和三二年四月二一日、里見富士夫が被告主張の土地を代金五〇万円で買受け、右代金が里見ラク名義の普通預金から引出されて支払われていることは、当事者間に争いない。

そうすると右(イ)(ロ)の合計額一、五七二、〇一二円が結局本件係争年度内において里見一薫ないしその家族のために手持金から預金又は使用された必要生活経費以外の金額ということになる。

(2) そこで里見一薫ないしはその家族に右程度の手持金を持つだけの余地があつたか否かの点について検討してみると、

(ハ)、本件係争年度内において、里見一薫が里見ラクないしは里見房枝名義による定期預金から原告主義(被告の主張に対する原告の答弁第一の九の(二)の(1)の(イ))の如く八三五、四七二円の払戻しを受けていることは当事者間に争いない。

(ニ)、証人村田克己の証言によつて真正に成立したものと認めうる甲第二〇号証の一、二、原告代表者尋問の結果によつて成立を認めうる甲第二一号証、成立に争いない甲第二二号証、証人村田克己の証言並びに原告代表者本人尋問の結果を綜合すると、里見一薫が本件係争年度以前において村田克己に貸付けていた五〇万円のうち元金一五万円と利息として七、四四〇円を本件係争年度内に返済を受けたことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

(ホ)、ところで被告は、本件係争年度内における里見一薫およびその家族が原告会社から受ける給料等の収入金額が別表(一)のとおりであり、その内必要生活経費は別表(二)のとおりであると主張するところ、成立に争いない乙第一五号証並びに弁論の全趣旨によれば、被告の右主張の金額はいずれも相当なものと推認しうるから、これによればその収入金額の合計六〇一、二〇〇円から必要生活経費二四七、二六〇円を控除した残金三五三、九四〇円は、里見一薫が自由に使用しうる剰余資金であるということになる。

そうすると右(ハ)、(ニ)、(ホ)の合計額一、三四六、八五二円は、本件係争年度内において里見一薫ないしはその家族が必要生活経費以外の手持資金として使用しうることができるものであること明らかなものであるから、これによれば、前記(イ)(ロ)の合計額から右(ハ)(ニ)(ホ)の合計額を差引いた残金二二五、一六〇円が、いまだにその出所が明らかでない金額であるということになる。

しかしながら、前記(ホ)の事実によれば、里見一薫ないしはその家族が原告会社から支給を受ける一ケ月当りの収入は少くとも毎月八一、五〇〇円であり、これから同家族の一ケ月当りの必要生活経費四一、二一〇円を差引くと、少くとも一ケ月当り約四万余円宛の剰余資金が生ずることになり、これは本件係争年度以前においても当然に生じていたものであること、原告代表者本人尋問の結果によれば、里見家は明治時代から海産物問屋を営んできたものであり、戦時中の統制のため一時これを閉鎮していたが、その解放後は数人の同業者が集まつて原告会社を設立し、以来現在に至るまで里見一薫が原告会社の代表者としてその業務を運営してきているものであつて、同人は現金や預金以外にその間に取得した原告会社の株式以外の株式等をも有していたこと、同人は本件係争年度内においても一部右の株式等処分して換金していることをそれぞれ認めることができ、これらの事実を綜合すると、本件係争年度内において、里見一薫が二十数万円程度の手持現金を前記認定の資金以外に所持し得たであろうことは推測に難くないところである。

(3) してみれば、里見一薫において前に認定した程度の手持金を持ち得る余裕がないとは云えないから、その余地がないことを前提として預金等の増加額は原告会社の所得の一部を隠ぺいしたものであるとする被告の主張は理由がない。

(六)、而して、原告代表者本人尋問の結果によれば、里見一薫が後藤栄なる架空人名義で預金口座を設けていたのも、里見一薫が原告会社或は親戚の者のために連帯保証をした債務等によつて自己所有の財産に対する強制執行等が行われることを妨げるためかかる架空人名義の預金口座を設けたものであることが認められ、このことは、弁論の全趣旨から認められるように、それまでにおいてもかつそれ以後においても、自己名義の預金口座は設けず、預金口座は全てその家族の名義によつて設定されていることからも推測しうるところであるから、後藤栄なる架空人名義の預金口座を設けているからといつて、これをもつて原告会社の所得の一部を隠ぺいするためのもの、ないしこれを利用して原告会社の所得の一部を隠ぺいしていたものと認めることはできない。

(七)、然らば、原告が後藤栄なる架空人名義の預金口座を設けて原告会社の所得の一部を除外していたとする被告の第一の九の主張は理由がないというべきである。

一〇、以上、被告において原告会社の帳簿全体につきその真実性に疑があると指摘主張する事実について逐一検討したところを綜合すると、前に認定判断したように、帳簿の記載に一部不突合の個所もあるが、これも不注意から生じたものとみられる程度のものであつて、これらを綜合しても原告会社の帳簿全体が粗雑不正確で信用できないものとは認められないし、他には取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装する等の不実の記載があるとは認められないから、原告会社の帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載する等当該帳簿書類の記載事項の全体についてその真実性を疑うに足りる不実の記載があるから帳簿全体が信用できないとする被告の主張は理由がない。

第三、然らば、被告が法人税法第二五条第八項第三号に該当するものとして原告の本件青色申告書の提出の承認を取消した処分は、その前提たる事実を欠いた違法なものであり、従つて、この取消を前提として法人税法第三一条の四第二項の規定に基いて為した本件更正決定の処分も違法なものであるから、いずれも取消されるべきである。

第四、よつて、原告の本訴請求はすべて正当であるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤和男 裁判官 原田三郎 裁判官武内大佳は転任につき署名押印することができない。裁判長裁判官 伊藤和男)

別表(一)

里見一薫及びその家族が原告会社から支払を受ける金員

<省略>

(註) 給料欄の金額は賞与の金額である。

別表(二)

里見一薫及びその家族の推計生計費

原告代表取締役里見一薫の生計費等を証する資料はないので、徳島県統計課の調査による都市生計費により推計したが、右調査には、鳴門市のものは存しないから、隣接の徳島市の生計費によることとし、これを各月ごとに要約すると次のとおりである。

<省略>

(註) 里見一薫は自己所有の建物に居住しているから、一ケ月平均生計費二一、〇九五円のうち、住居費相当額一、五一八円を差引いた金額一九、五七七円を、平均世帯人員四、七五人で除算すると、一人当りの平均一ケ月の生計費は四、一二一円となり、里見一薫と生計を一にする家族一〇名の係争事業年度中における生活費の総額は二四七、二六〇円となる。

別表(三)

売買差益金額の計算

(1) 売上原価の計算

前期繰越商品 三、二五九、八七八円

同製品 三三、一一〇円

仕入商品 六〇、七一六、六五三円

運賃 九〇〇、七一九円

製造費 三七、五〇四円

商品加工費 二二、六五〇円

冷蔵料 三八四、二一〇円

減価償却費(機械) 五、〇〇〇円

小計 六五、三五九、七二四円

期未棚卸商品 八、二〇一、五八六円

同製品 二三、三四〇円

小計 八、二二四、九二六円

差引売上原価 五七、一三四、七九八円

(2) 売上金額の計算

売上商品 四五、〇三五、一一五円

同製品 七〇七、八九六円

委託売上品 一七、七六六、九四〇円

小計 六三、五〇九、九五一円

売上値引 一〇四、二六八円

差引売上金額 六三、四〇五。六八三円

(3) 売買差益金額ならびに売買差益率の計算

売上金額六三、四〇五、六八三円から売上原価五七、一三四、七九八円を控除すると売買差益金額六、二七〇、八八五円となり、当該金額を売上金額六三、四〇五、六八三円で控除するとその割合は九、八九%となる。

別表(四)

売買差益率調

(1) 煎子差益率

<省略>

平均 一二、二一%

(2) その他塩干物差益率

<省略>

平均 一二、七四%

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